■■日本現代中国学会ニューズレター第19号■■
2006年9月
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【巻頭言】日本現代中国学会第56回全国学術大会に寄せて
大会実行委員長 和光大学・佐治俊彦
今年の大会は10月21,22日和光大学で行われることになりました。
毎年関東理事会でまず共通論題のテーマを何にするかが議論となり、各人のその年その年での中国認識と観察視角が激しくぶつけ合わされることになるのですが、今年は最初に格差の問題でいこうという話が出たのですが、文学・思想分野からこのテーマで何か語れるかという疑念が出され、大きく発想転換して、大上段に文革40年でいこうという話が出て、後は毛里理事長の積極的な支持で大きなぶつかり合いもなくトントン拍子に話は進みました。
私は1964年に中国古典をやろうと東京教育大学の漢文学科に入り、漢文学の古風な体質や筑波移転反対運動の影響で現代文学に方向転換しようとした矢先に文革にぶつかってしまいました。以後研究テーマは1920,30年代の中国文学を軸に置いて考えてきていますが、一貫してそれらのテーマは文革とは何だったのかという問題から離れることはありません。しかし日本の学生に「文革って何ですか」と問われるのは仕方ないとして、歴史認識と教科書問題が声高に叫ばれて反日デモが荒れ狂う中で中国の若者も「文革は知りません」と言うのを聞くと、自分が年を取ったという思いと同時に、これでいいのだろうかと思わざるを得ません。二度と繰り返さないために文革博物館を作ろうという巴金の決死の叫びが楊克林編著の『中国文化大革命博物館』の巨著に結実し、文革を理性的批判的に見る書がかなり沢山書かれ、さらに去年蒜頭に民間の手で文革博物館ができたと聞いて、中国の理性への信頼を深める一方で、いまだに厳重に封印され発表を認められない文革に関する議論や書があるという話もあちこちから聞こえてきます。
中国でできないからこそ日本で文革の総括をやろうという気は毛頭ありませんが、ここらで一度日本における文革研究を総括し、現在の中国の諸問題と結びつけて考えてみることは、今後の現代中国研究にとって是非とも必要なことではないかと思います。ずっと文革の問題を考えて来られた丸山昇先生と近藤邦康先生が特別講演をお引き受け下さったことも、実行委員長として大きな喜びです。野村浩一先生にもお話願いたかったのですが、お身体の都合でまたということになりました。
開催校の和光大学は今年奇しくも創立40周年を迎えました。思えば東京教育大学で筑波移転反対派の学長候補として梅根悟先生が学長選を戦われ、我々学生の応援虚しく敗れて和光大学を作られたのでした。その直後に文革が発動されたことになります。ほぼ文革と同じ歴史を歩んできました。1974年国交回復後最初の中国留学生をどこの大学も引き受けず、宮川寅雄先生がおられた関係から敢然引き受けた大学でもあります。中国との関係は深すぎるほど深いのですが、去年の大会でも申しましたように、小田急線の鶴川という急行も止まらない駅で降りて頂いて、歩けば20分近く掛かるやや不便な場所にある、学生数四千にも満たない小さな大学です。院生も殆どおらず会員は教員4人しかいません。これでちゃんと大会が運営できるのだろうかと今でも不安ですが、文革の「上山下郷」に比べれば遥かに快適な環境を用意して、多くの会員の皆様、自由参加の皆様がお出で下さるようお待ちしております。
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〔各地域部会研究会の報告〕
2006年度関西部会大会(同時開催「石田浩先生追悼シンポジウム」)
日時:2006年6月4日午前10時〜午後5時半
会場:関西大学百周年記念会館
〔第56回全国学術大会のご案内〕
*詳細な発表要旨は、学会HP(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jamcs/ )をご確認ください。
2006年10月21日(土)
自由論題 10:20(受付開始9:30)〜16:30
総会 16:40〜17:30
懇親会 17:30〜19:30
2006年10月22日(日)
共通論題報告・講演 10:00〜15:00(受付開始9:30)
会場: 和光大学
大会実行委員会事務局
〒195-8585 東京都町田市金井町2160
和光大学表現学部加藤研究室気付
Tel.044-988-1431(代)
E-mail:m.kato@wako.ac.jp
第1日
自由論題
第1分科会 政治・法律(3階H302教室)
◆座長 平野聡(東京大学)
第1報告(11:10〜12:00)
董宏(桜美林大学)
「中国の対外宣伝におけるインターネット宣伝」
◆座長 姫田光義(中央大学)
第2報告(13:00〜13:50)
大澤武司(中央大学)
「戦後東アジア国際秩序の再編と中国残留日本人の発生―『遣送』と『留用』のはざまで―」
第3報告(13:50〜14:40)
鹿錫俊(大東文化大学)
「中国共産党支配地域における日本人留用の諸相:1945-1950年代」
◆座長 高見沢磨(東京大学)
第4報告(15:00〜15:50)
太武原(大阪経済大学)
「中国人材派遣法の立法化―先進諸国における労働者派遣法の考察から」
第5報告(15:50〜16:40)
通山昭治(九州国際大学)
「『七五年憲法下の中国人民司法』再考――公判・「宣判」大会の位置づけを中心に」
第2分科会 経済分野 (3階H301教室)
◆座長 佐々木信彰(大阪市立大学)
第1報告(13:00〜13:50)
蘇林・伊藤昭男(北海商科大学)
「内蒙古牛乳業の広告戦略」
第2報告(13:50〜14:40)
中岡深雪(大阪市立大学大学院生)
「中国住宅市場における諸問題――住宅政策が市場形成に与えてきた影響に留意して」
第3報告:欠番
◆座長 田島俊雄(東京大学)
第4報告(15:00〜15:50)
興津正信(大東文化大学大学院生)
「中国の水価格変動と水資源の合理的利用――北京・天津を事例にして」
第5報告(15:50〜16:40)
栄欣(大東文化大学大学院生)
「河南省の観光産業 ――地方政府の観光政策を中心に」
第3分科会 社会・歴史 (3階H303教室)
◆座長 聶莉莉(東京女子大学)
第1報告(10:20〜11:10)
緒方宏海(東京大学大学院生)
「中国黄海島嶼の漁業と家族生活――長山諸島の漁村に関する社会人類学的考察」
第2報告(11:10〜12:00)
王慧琴(慶応大学)
「中国北方漁村における家族と婚姻の変容」
◆座長 西村成雄(大阪外国語大学)
第3報告(13:00〜13:50)
横浜勇樹(三重中京大学)
「中国北京市の高齢者施設の入居者に関する研究」
第4報告(13:50〜14:40)
森久男(愛知大学)
「陸軍「蒙古通」軍人の系譜――関東軍の内蒙古工作を中心として」
◆座長 大里浩秋(神奈川大学)
第5報告(15:00〜15:50)
李c(愛知大学大学院生)
「中国における私費留学政策の変容」
第6報告(15:50〜16:40)
川副延生(名古屋商科大学)
「黒竜江省の農村部における農業改革前の学校教育の普及」
第4分科会 文学・思想 (3階J301教室)
◆座長 阪本ちづみ(法政大学)
第1報告(10:20〜11:10)
神谷まり子(国士舘大学)
「「野蛮」な「文明」――社会小説に描かれる文明結婚」
第2報告(11:10〜12:00)
大橋義武(東京大学大学院生)
「胡適の文学史観について」
◆座長 小谷一郎(埼玉大学)
第3報告(13:00〜13:50)
晏■(女へんに尼)(一橋大学大学院生)
「中国映画はどのように語られていたのか――戦時日本における中国映画論」
第4報告(13:50〜14:40)
中村みどり(早稲田大学)
「陶晶孫と村山知義 ――1930年前後を中心として」
◆座長 刈間文俊(東京大学)
第5報告(15:00〜15:50)
森平崇文(東京大学大学院生)
「「大世界」から「上海人民遊楽場」へ――遊楽場の社会主義的改造」
第6報告(15:50〜16:40)
谷川毅(名古屋経済大学)「閻連科について」
総会
10月21日(土) 16:40〜17:30
会場 3階J301
懇親会
10月21日(土) 17:30〜19:30
会場 和光大学生協食堂
会費 一般会員5,000円 学生会員3,000円
第2日
共通論題
「文革40年と中国の現在」
*9:30受付開始 4階Jホール
午前の部 10:00〜12:00 報告と全体討議
◆座長 上原一慶(京都大学)
金野純(日本学術振興会特別研究員)「建国後中国の社会変容と文化大革命」
呉暁林(法政大学)「漸進的改革の初期条件――文革期の地方分権を再認識」
牧陽一(埼玉大学)「紅い激情――文革の表象とその展開」
午後の部 13:00〜15:00 講演
◆座長 佐治俊彦(和光大学)
丸山昇(東京大学名誉教授)「近45年における中国と私」
近藤邦康(大東文化大学)「毛沢東の思想と文化大革命」
共通論題テーマ「文革40年と中国の現在」
日本で「戦争を知らない子供たち」という歌が流行った時期は、文革が始まって数年内のことだったが、その始まりから40年を迎える本年ともなると、中国でも、「十年の動乱」の傷痕をかかえる人たちがいなくなったわけではないが、「文革を知らないおとなたち」も増えつつある時代を迎えている。それどころか、「六四=天安門事件を知らない子供たち」もでてきていて、オリンピック景気に沸く北京ではその記憶も色あせてしまったかのようにもみえる。世界の多くの観光地でまず目に付くのは中国人旅行客だといえるほどの状況にも表れているように、90年代以降、世界におけるプレゼンスを巨大なものにしつつある中国の激変をあらためて実感する昨今となった。
かたや日本も、911事件以降のアメリカの「対テロ」の名による世界戦略上の米軍再編にあたって、「日米同盟」強化・「日米一体化」路線へと大きく舵をきりはじめている。中国のほうの激変だけでなく、そうした日本のありかたもまた、戦後の日本国憲法と日米安保の抱き合わせで経済復興・発展をとげた歴史からみて、その将来への影響が決して小さくはない変更を選択しつつあるといってよい。これも昨年来の中国における「反日」行動・世論および日本に広がる「嫌中」感情と無縁ではないだろう。
日中関係史的にみればそのように楽観を許さない段階にさしかかりつつある今、日本における中国研究者としては、歴史認識や宗教文化問題への専門的かつ多角的視野に裏付けられた資源を供するとともに、グローバル化と軍事的政治的世界再編の動きのなかでの日中、アジアの位置づけを冷静におこなう必要があるだろう。
そういう意味で、かつて世界を震撼させた文革を、その関連性・断絶性をはじめ、むしろ中国(そして世界)の現在を考察する参照軸として再考しておくことは重要な作業といえよう。そこで、今大会では、以下の柱をたてて、この問題をテーマとしてとりあげたい。
1,ベトナム反戦運動およびそれと連動した世界的学生運動の波という世界の揺れのなかに、文革を位置づけてみる。当時、世界的に「マオ派」が出現、毛沢東語録が聖書に次ぐベストセラーであるといわれたことなどからしても、看過できない問題があろう。
2,1の点とも関連することとして、文革では少なくとも理念においてはあらゆる面で社会平等が希求された。だが今日の中国の抱える大きな問題のひとつは、この何年かの大会でも言及されてきたように、格差の問題である。この問題をどうとらえていくのか、これは格差社会の肯定、勝ち組/負け組という分化が支配的になりつつ日本においても、経済発展を遂げつつある周辺のアジア諸国においても多々共通するところがあろう。
3,在外中国人研究者によって、「文革受難者」列伝が編まれたりし始めた今、現実の「社会主義国」の政治文化ともかかわる、社会システムにおける抑圧的装置あるいは暴力の問題もまた、その文化的表出をも含めて突き詰めておく必要があろう。これもまたアメリカをはじめとするテロ対策の名のもとの暴力の問題ともつながることになろう。
以上の点をおさえ、あるいは手がかりとして、各方面からの報告と、広い見識からの総評的コメントで議論が活発化することを望みたい。
2006年 大会実行委員会
☆ご来場の手引き
○「和光大学」へのアクセス
小田急線鶴川駅よりスクールバスで10分、徒歩20分
○「鶴川駅」へのアクセス
*新宿駅より小田急線で約40分
*渋谷駅より井の頭線で「下北沢駅」乗り換え(約45分)
*横浜駅よりJR横浜線で「町田駅」乗り換え(約55分)
*新横浜駅よりJR横浜線「町田駅」乗り換え(約45分)
*八王子駅よりJR横浜線「町田駅」乗り換え(約45分)
○「鶴川駅」和光大学スクールバス発着所
北口改札(駅前ビル側)を出て右へ、郵便ポスト、タクシー乗り場、不動産店前を通ってマルエツ側へ横断歩道を渡り、左手の公衆電話ボックス近く、バスロータリー向かいビル(窓に「和光大学ぱいでいあ」の看板あり)付近。
<スクールバス鶴川駅前発時間表>
10月21日(土)
8:30 9:10 9:40
10:00 10:20 10:55
12:00 12:30 13:15
14:20 14:55 16:05
16:35 17:20
10月22日(日)
8:30 9:00 9:25
9:50 10:15 11:30
11:50 12:20 12:40
13:05
○「鶴川駅」から徒歩の場合
南口改札(町田方面ホームの町田よりの端)
を出て直進、つきあたり飲食店前で左へ折れ、衣料品店、不動産店の前を通り鶴見川べりに登り、右へ折れ、自転車置き場を過ぎたところで橋を渡り直進、左手に酒屋(市村青果店前和光大学スクールバス発着所)を見ながら、つきあたりを右に折れ、道なりに緩いカーブをまがり道なりに進み、山崎ショップ、かじのや納豆工場を経て和光大学へ。
○「鶴川駅」からタクシーの場合
約10分、約1000円。
☆大学の住所と電話番号
〒195-8585 東京都町田市金井町2160 Tel.044-988-1431(代)
〔組織状況〕 9月5日確認分まで 総会員数713名
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日本現代中国学会事務局 E-mail:genchujp@yahoo.co.jp
153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1 東大教養学部中国語研究室気付
郵便振替 東京00190-6-155984 日本現代中国学会
編集担当 新谷秀明(西日本部会・西南学院大学)