目次
巻頭言 学会の存在意義    伊藤 徳也
各部会研究会報告・予定
組織状況

巻頭言
                       学会の存在意義

                                      事務局長  伊藤 徳也  

 事務局の業務を知らないまま事務局長の仕事をやりはじめて満一年が過ぎた。事務局の業務は、
たぶんそれだけをやるのならたいした仕事量とは言えない。しかし、閑職でない本業を他に持ち、家
庭や地域の構成員として日々過ごしながらやるには十分煩雑だ。それは何かの役に立っている意
義深い業務だという、確信と言わないまでも幻想が欲しいと思うことがある。
 私が学会の存在意義を実感するのは、自分の指導している大学院生やよく知った若い研究者が
初めて学会で報告をしたり、学会誌に発表する時くらいだ。彼らが、面識のない先輩の研究者や老
先生の前で自分の研究を披露して、彼らから厳しい質疑を受けたり、見知らぬ査読者から過酷な注
文を受けたりするのは、他では体験できない重要な意義を確かに持っている。それは現在のアカデ
ミズムの制度内で研究者が研究者になるための必須の通過儀礼になっている。だから、入会するの
も、今度報告するから入る、という人が多い。もしかしたら、それだけでも学会の意義というのは十分
なのかもしれない。けれども、それだけだと、会員の教育的で鷹揚なボランティア精神なしでは結局
学会は維持できない。通過儀礼をすませて入会した研究者が、その後会費を滞納するのは、学会費
を払い続ける意味を失うからで、そうした会員は決してごく少数とは言えないからだ。それでも、見知ら
ぬ研究者の新しい探究に驚喜したり、暖かいムチを与えたりできる人が居残っていけば、学会と言う
通過儀礼の場も一応維持できるだろう。とはいえ、その程度の意義付けではさびしい気はする。
 だから、と直接にはつながらないのだが、大会や学会誌は最大多数の会員に満足を与えるような
ものであるべきだろう。そのうえでポイントになるのは、大会の共通論題ではないかと私はひそかに
考えている。一昨年の新潟大学での共通論題には、大同の水不足の過酷な状況の報告と、日本軍
による性暴力被害についての生々しい聞き取り調査の報告があった。静的な学術研究とは一味もふた
味も違うそれらの報告の迫力は圧倒的だった。もちろん人によって受け取り方は違ったかもしれない。
しかし少なくともあの時の共通論題をたたき台にして、もっと共通論題の設定の仕方を論議しておくべき
だったのではないかと今になって思う。私個人は聴衆の一人として、共通論題では、穴のない教科書
的な報告ではなく、多少荒削りで破綻があっても、他領域の研究者の胸にも届くような刺激的な問題
提起を聞きたいと思う。今年度の法政大学における大会まであと数ヶ月となった。人選も含めてもう共
通論題をどうするか決めておかなければならない。
                                               2004年5月9日  





◇各部会研究会報告(2004年1月から4月の間に開かれた研究会の概要です)

西日本部会春季研究集会
日時 4月17日(土) 13:30開会
場所 九州大学六本松キャンパス5号館510教室
報告1. 馬 興国(遼寧大学・九州国際大学) 「当面の中日交流について」
  司会:西村 明(九州産業大学)
  コメンテーター:山田敬三(福岡大学)
報告2. 新谷秀明(西南学院大学) 「王安憶の描く上海――『富萍』を中心に」
  司会:岩佐昌ワ(九州大学)
  コメンテーター:與小田隆一(久留米大学)
報告3. 藤村一郎(久留米大学)  「吉野作造の日中関係論――北伐期を中心に」
  司会:小竹一彰(久留米大学)
  コメンテーター:李秀烈(九州大学)

関西部会春季研究集会
日時 2月28日(土) 10時00分〜17時00分
場所 大阪市大文化交流センター
政治経済分科会(1)司会:宇田川 幸則(関西大)
1. 姜 旭(桃山学院大院) 「貨物輸送に関する中国地域経済及び物流諸問題」
   コメンテーター:辻 美代(流通科学大)
2. 霍 麗艶(大阪市大院) 「中国会社法における取締役会のコントロール機能」
   コメンテーター:徐 治文(追手門学院大)
3. 加治 宏基(愛知大院) 「台湾の『世界保健機関加盟』政策をめぐる一考察」
   コメンテーター:今井 孝司(大阪滋慶学院)
政治経済分科会(2)司会:上原 一慶(京都大)
1. 柳 亮輔(北海道大院) 「1940〜50年代中国における「民主」言説の変遷について――『民主派知識人』を中心に」
   コメンテーター:余 項科(静岡県立大)
2. 紀平 良昭(京都大院)「各種統計年鑑データを使った郷鎮企業の所有制度改革の計量的分析」
   コメンテーター:厳 善平(桃山学院大)
3. アブリキム・ハサン(京都大学) 「新疆ウイグル自治区少数民族地域における貧困問題」
   コメンテーター:佐々木 信彰(大阪市大)
歴史文学分科会(1)司会:田中 仁(大阪外大)
1. 成瀬 千枝子(関西学院大) 「大阪の華人教会――宗教と下位エスニシティ−」
   コメンテーター:二宮一郎(大阪府立桃谷高)
2. 前田 輝人(大阪外大院) 「1930年代上海日本人社会の変容に関する数量的分析」
   コメンテーター:安井 三吉(神戸大)
3. 蒋 海波(孫中山記念館) 「中華革命党の財政について――『王敬祥関係文書』を手がかりとして」
   コメンテーター:三輪 雅人(関西外大)
歴史文学分科会(2)司会:杉本 雅子(帝塚山学院大)
1. 王 蘭(大阪大院)「『女傑賛美』から『婦人を哀れむ』へ――周作人の女性論の変遷について」
   コメンテーター:工藤 貴正(愛知県立大)
2. 木村 泰江(関西大) 「張愛玲小説集『伝奇』増訂本収録の後期5編の書き換えについて」
   コメンテーター:梁 有紀(富山大)
3. 瀬邊 啓子(大阪大) 「新時期以降における南京『都市』文学事情」
   コメンテーター:中山 文(神戸学院大)

関東部会修士論文報告会
日時 2004年4月24日(土)午前9時45分〜午後5時10分
場所 法政大学法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7階大会議室2
<座長 白水 紀子>
1.竹元 規人(東京大学大学院・人文社会系研究科)
  「『伝統』の内と外――胡適の中国哲学史/思想史論」
2.黄毓てい(女+亭)(東京大学大学院・総合文化研究科)
  「台湾知識人劉吶鴎研究」
<座長 土田 哲夫>
3.小池 求(東京大学大学院・総合文化研究科)
  「1901年ドイツへの清朝の「謝罪使」派遣について―「謝罪使」観と謁見儀礼問題を中心に―」
4.関 智英(東京大学大学院・人文社会系研究科)
  「汪精衛政権、正統性の模索──上海特別市における孫中山銅像建設を中心として」
<座長 趙 宏偉>
5. 大橋 史恵(お茶の水大学大学院・人間文化研究科)
  「家政サービスに見るジェンダーの変化と再編成」
6.戸田賢治(一橋大学大学院・言語社会研究科)
  「英領マラヤにおける海峡華人のアイデンティティーと言語――海峡華英協会を中心として」
<座長 菊池 道樹>
7.岸 保行(中央大学大学院・社会学研究科)
  「台湾日系企業における日本的現地化―現地人マネジャーの役割の変容とそれが示唆すること―」
8.門 闖(東京大学大学院・経済学研究科)
  「中国不良債権処理と債転株に関する実証研究――債転株企業を中心に」



◇研究会予定(今後開かれる予定の研究会です)

関西部会夏季研究集会
日時 2004年7月3日(土)
場所 関西大学100周年記念会館
* 問い合わせは関西部会事務局総務担当者へ
e-mail: udagawa@nomolog.nagoya-u.ac.jp



◇組織状況

現在の会員数 672名

#事務局より#
規約に「3年を超えて会費を滞納したものは、特別の事情がないかぎり、理事会において
退会したものとみなす。」とあり、昨年10月の全国理事会において「会費滞納3年以上で
退会扱いという規定を厳格に適用すること」が承認されました。今回の退会者の中には
その理事会決定によって認定された方が多数含まれます。


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編集担当 新谷秀明(西南学院大学) hideaki@seinan-gu.ac.jp