日本現代中国学会ニューズレター

Newsletter of The Japan Association for Modern China Studies
No.8 2002.12.28
巻頭言  理事長・坂元ひろ子
関東部会夏季研究会
全国大会報告、次期大会予告
各地域部会研究集会予定
2003年〜2004年役員体制
『現代中国』投稿先変更
組織状況
事務局短信
編集後記
事務局所在地

☆巻頭言☆

理事長就任にあたって

日本現代中国学会理事長  坂元ひろ子

(一橋大学大学院社会学研究科)

このたび、思いがけなく本学会理事長に選出され、不惑の年はいつの間にか、とうに過ぎてはおりますものの、さすがに当惑を禁じ得ません。のちの回顧において毀貶が加えられるやも知れませんが、みなさまのご協力で、なんとか任期をのりきりたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

 本学会は会員数ではかつてより盛況となっていますものの、その内実が問われはじめているのも事実です。

構想力をもった自律的な改編の時期にさしかかっているというべきかもしれません。関西・西日本でのこのところの動きの活発化は、その機運を示しているとみなしうるでしょう。東京、東京大学におかれ続けてきた事務局体制も、再検討すべき時期だという声もあがってきました。今後はそうしたことを課題化して進むことになるでしょう。私の任期内では、改編への方向性の議論を積み重ねていくのがせいぜいのところかもしれませんが、みなさまの声をお聞かせいただきたいと思います。

 学会の改編といった問題は、日中、さらに世界の動向ともリンクしています。中国と日本の状況を考えますと、今年は日中国交正常化30周年にあたり、しかも中国では江沢民体制から胡錦濤体制へとスウィッチされたという意味では、新世紀の大きな節目ともなるべき年であったといえるでしょう。

 かたや、日中問題を考えるのにも日中に注目するだけではすまない、ということも明らかとなってきています。歴史認識問題もアジア規模に開いていくことが解決をはかるうえで必要になるでしょう。そして、いうまでもなくグローバル化のなかで昨年、アメリカで911事件が起こり、その後、アメリカ主導による戦争が、日本ばかりか中国をも巻き込む様相を呈してきています。20世紀は戦争の世紀といわれましたが、形を変えた戦争の世紀を重ねかねない、と危惧されます。まして、アジアにエネルギッシュな発展をみせる国々がある一方、たとえば朝鮮民主主義人民共和国は国内外で厳しい環境におかれ、それを認識する日本の知的な貧弱さなどを考慮しますと、なおさら暗雲がみえてきます。

 こう考えますと、日本現代中国学会とはいえ、中国だけでなく、より広いアジア−−決して自明ではなく、むしろ未来形の−−にも開かれていく方向を模索し、諸国間の非対称性を認めたうえでの相互批評空間的な方向をめざし、知的資源を創出していくべきではないでしょうか。就任に当たって、みなさまに問いかけさせていただきたいと思います。

☆関東部会夏季研究会報告要旨(7月13日 東京大学教養学部)

*紙幅の事情などで前号に掲載できなかったものです。

中国農村の政治発展と村落システム

田原史起(東京大学)

  これまでの「村治」(村級治理=village governance)研究は、次の三点を暗黙の前提として議論の下敷きにしてきた。

@     村落類型の分類基準において「理想からの距離」を採用する。例えば「理想の村民自治」に近いタイプ(「法治型」)

A     と、理想から遠いタイプ(「伝統型」)、中間的タイプ(「能人型」)など。

B     村落類型を決定する要因を見る上で、村治(政治構造)を被説明変数とした上で、政治以外の諸要因を説明変数として用い、しかも経済構造→政治構造、村落伝統→政治構造のように、単方向的な説明をおこなう。

C     村落類型相互の関係を説明する上で、より「理想的」でないタイプから、より「理想的」なタイプへと直線的に「発展」していく、という図式をもつ。

  これに対し、本報告は、特定村落の「村治」を「村落システム」内のサブ・システム、すなわち経済システム、社会システム、政治システムの相互連関において理解することの重要性を強調する。題材として、北京市延慶県X村を取り上げる。

@     X村の政治システムの特徴は、村民レベルでの政治的な無関心と、村-農家の中間レベル・エリートの存在感の希薄さなどに起因する、村指導部への権限集中にある。

A     こうした政治システムは、a.自己扶養能力に富んだ孤立世帯、それゆえ中間集団が不在であり自明な「村落社会」が存在している社会システムや、b.小農経済と市場経済を連結し、開発による豊富な村有財産と独自財源をもつ経済システムの特徴と有機的複合をなす。サブシステム間の関係は相互補完的・安定的であるといえる。

B     したがって、今後、X村の政治システムが今後ただちに大衆参加型ないしは「法治型」に転換していくと想定することはできない。その転換は少なくとも、直線的な発展ではなく、「螺旋状」の発展過程を辿るはずである。

農村通俗文芸についての一考察―『三里湾』発表を巡って

樫尾季美(東京大学大学院生)

 趙樹理は長らく「人民文学」の顔と言われ、ともすれば政治的な枠組みで評されることの多い作家であった。しかし近年「通俗作家」として、異なる側面に当てられた光の中で読み直すと、改めて新鮮な興味を覚える作品も少なくない。

本発表では、一般に趙樹理の活躍期と認識される五十年代中葉の作品『三里湾』(1955)発表のエピソードを拾い集め、それを当時の出版状況の中に置いてみることで、作家としての趙樹理の意識、そして彼の志向した「通俗文学」がどのようなものであったかの検証を試みた。

  趙樹理は『三里湾』の単行本化にあたり、当時の文芸出版の主流であった人民文学出版社ではなく、通俗読物出版社という別の新興出版社を選ぶ。この瑣末な事実の背後を関係者の回想録、出版関連資料(档案、出版目録)から読みとろうと試みた結果、実は当時の文芸界、出版界の多層にわたるな問題や変化が作用していることが見えてきた。大衆文芸表現の向上を目指し、趙樹理が中心となって立ち上げた大衆文芸創作研究会が、当時、党宣伝部文芸処処長を兼務していた丁玲等を擁し、文壇の中心をなしていた文協(現在の作協にあたる)グループとの間に一種の対立関係を抱えていた事。通俗読物出版社の成立に見られる通俗読物重視の出版政策の流れ。このような事情が重層的に作用して、趙樹理に新たな選択肢を与えたのである。

  趙樹理と通俗読物出版社の出会いは、その後老舎や張恨水といった周囲の作家をも巻き込んで雑誌「大衆文学」の企画にまで発展するが、反右派闘争の開始によってこの企図は水泡に帰したという。様々な要因、人物が複雑に絡み合い、こうした五十年代の一つの文芸発展の可能性が芽生えていたことは記憶に留めておきたい。

全国大会報告および次期全国大会予告

     十月一九日、二〇日両日新潟大学で開催された第五十二回全国大会は、出席者合計が百六十八名(会員一〇五名、非会員六三名、スタッフ等含まず)に達し、東京・関西以外の地区での開催としては盛況であった。出席者数は開催校調べ。

     一九日開催の総会で、第五十三回全国大会開催校が大阪市立大学に決定した。その後、開催日は一〇月一八日(土)、一九日に決定(日)。

     大会期間中開催の新理事会で、坂元ひろ子理事(一橋大)が理事長に選出され、総会で確認された。任期二年。

他の役員は別項。

各地域部会研究集会・研究会予定

関西部会

二〇〇三年三月八日(土)、大阪市立大学文化交流センター(大阪駅前第二ビル)にて恒例の若手会員を中心とする春季研究集会を開催する。本年から会場が第二ビルに替ったので注意されたい。詳細は後日、関西部会会員への通知やホームページで告知する。

関東部会

二〇〇三年四月一九日(土)に恒例の修士論文報告会を開催する。場所などは後日連絡する。現在、会員の推薦を募集中。締切は三月一七日、申込先は関東部会事務局(全国事務局に同じ)まで。

なお、例年一、二月に開催していた冬季研究会は大学の繁忙期にあたっているため本年は中止し、かわって常任理事会(五月または六月)前後に研究会開催を予定している。通年の研究会開催回数は変わらず。

西日本部会

一月十七日(金)六時半より福岡市赤煉瓦文化会館(天神)で西日本部会主催月例会「「現代中国講座」を開催。報告:新谷秀明氏(西南大学)「余秋雨をめぐって」、溝口喜郎氏(九大院生)「中間人物論から」

四月十九日(土)午後一時半−五時九州大学国際研究交流プラザ(福岡市早良区西新2−16)で春季研究集会を開催。詳細は後日連絡。

☆二〇〇三年〜二〇〇四年役員体制

会員の選挙および選出理事の推薦により総会で二〇〇三年〜二〇〇四年度の学会理事が確認された。その後、各地域部会の推薦などにより、理事の分担および常任理事が理事長により指名された。

理事(地域部会別五十音順)

関東部会 伊藤一彦(宇都宮大学)、伊藤徳也(東京大学)、内田知行(大東文科大学)、宇野和夫(早稲田大学)、太田勝洪(法政大学)、奥村哲(東京都立大学)、菊地道樹(法政大学)、国谷知史(新潟大学)、国分良成(慶應義塾大学)、小島麗逸(大東文化大学)、近藤邦康(大東文化大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、佐治俊彦(和光大学)、朱建栄(東洋学園大学)、白水紀子(横浜国立大学)、代田智明(東京大学)、高橋満(帝京大学)、高見沢麿(東京大学)、田嶋俊雄(東京大学)、谷垣真理子(東京大学)、田原史起(東京大学)、趙宏偉(法政大学)、塚本元(法政大学)、土田哲夫(中央大学)、並木頼寿(東京大学)、西野由希子(茨城大学)、村田忠禧(横浜国立大学)、村田雄二郎(東京大学)、毛里和子(早稲田大学)、若林正丈(東京大学)

関西部会 石田浩(関西大学)、上原一慶(京都大学)、宇田川幸則(関西大学)、宇野木洋(立命館大学)、大西広(京都大学)、加々美光行(愛知大学)、加藤弘之(神戸大学)、佐々木信彰(大阪市立大学)、砂山幸雄(愛知県立大学)、瀬戸宏(摂南大学)、鉄山博(大阪商業大学)、内藤昭(大阪市立大学名誉教授)、南部稔(神戸商科大学)、西村成雄(大阪外国語大学)、三好章(愛知大学)

西日本部会 岩佐昌ワ(九州大学)、小竹一彰(久留米大学)、新谷秀明(西南学院大学)、西村明(九州大学)、山田敬三(福岡大学)

理事長 坂元ひろ子

事務局担当理事 *伊藤徳也(事務局長)、谷垣真理子、田原史起

編集担当理事 *瀬戸宏(委員長)、石田浩、岩佐昌ワ、内田知行、宇野木洋、大西広、佐々木信彰、鉄山博、内藤昭、西村成雄

広報担当理事 新谷秀明、瀬戸宏、土田哲夫、村田忠禧(設置予定、03年6月頃開催の常任理事会で正式決定の予定)

研究会担当理事 *菊池道樹(委員長)、白水紀子、趙宏偉、土田哲夫

関西事務局担当理事 *石田浩(事務局代表)、宇野木洋、大西広、佐々木信彰、瀬戸宏、鉄山博、内藤昭、西村成雄

西日本事務局担当理事 *山田敬三(事務局代表)、岩佐昌ワ、小竹一彰、新谷秀明、西村明

選挙管理委員 芦田肇、福家道信、青野繁治、白井重範

会計監査 宮尾正樹、川井悟

評議員 小島晋治、古島和雄

*・・常任理事

☆『現代中国』編集委員会関西移転と投稿先変更

十一月五日開催の関西部会事務局会議で学会事務負担分散化の観点から『現代中国』七七号、七八号編集を関西部会が担当することが決定され、瀬戸宏理事が責任者(編集委員会代表)に任命された。編集委員会は関西事務局理事全員と関東・西日本理事から各一名で構成することになった。

研究年報としての性格を強めるという前編集委員会の方針を受け継ぎ、査読制の一層の充実など『現代中国』をより質の高い学術誌にするため内容の向上を更に図っていくことが確認された。

編集委員会の関西移転に伴い、『現代中国』投稿先が変更になった。新しい投稿先は次の通り:

〒572−8508 寝屋川市池田中町17−8摂南大学国際言語文化学部瀬戸宏研究室気付日本現代中国学会

『現代中国』編集委員会

  電話:072−839−9195。 電子メールseto@ilc.setsunan.ac.jp

締切:自由投稿原稿は一月三一日(必着)、書留または簡易書留で原稿コピーを三部提出のこと(フロッピー不要)。

一ヶ月をメドに査読の結果を通知。

特集原稿は三月三一日(必着)、原稿一部とフロッピーを提出。

例年と同様に、全国大会時の発行を予定。他は『現代中国』七六号掲載の投稿規定と同じ。投稿規定は学会ホームページにも掲載されている。

☆組織状況 

現在会員数:708名(2002年9月30日現在)

新入会員 *遺漏がありましたら事務局までご連絡ください。

生田頼孝(立命館大院)、藤田益子(新潟大)、澤田啓二(天理大)、史文(大東文化大)、小林春樹(大東文化大)、原瀬隆司(大東文化大)、林幸司(一橋大院)、梅村卓(上智大)、溝口喜郎(九州大)、坂野良吉(上智大)、藤巻啓森(青森明の星短期大学)、潘世聖、園田節子(東京大院)、霜麗艶(大阪市大院)、馬瑞萍(神戸市外大院)、古川慧游公、佐和晋太郎(早稲田大)、陳一瑞(大東文化大院)、原田忠直(日本福祉大)、呉紅華(大東文化大非常勤)、王京濱(東京大院)、山本真(筑波大)、志水郁子(愛知大)、権五明(九州大院)、服部健治(愛知大)、久保亨(信州大)、大野太幹(愛知大院)、林祁(城西国際大)、大沢幸一郎(早稲田大学大学院)、真殿仁美(神戸大院)、李香淑(大阪外大院)、滝田豪(京都大院)、張原銘(立命館大院)、横井香織(県立静岡工業高)、加治宏基(愛知大院)、姜旭(桃山学院大院)、中川涼司(立命館大)長澤靖典(兵庫教育大院)、王雪萍、李E(慶応義塾大院)、福士由紀(一橋大院)、倉田徹(東京大院)、西田幸信(東京農工大院)、八杉理(明治大院)、鄭浩瀾(慶恵義塾大院)、濱田麻矢(神戸大)、成瀬千枝子(関西学院大研究生)          計47名

退会者  浅井敦、細川廓真(逝去)、工藤明美、青木周三、高崎真理子、六角恒廣、中屋敷宏、小田川圭甫、上妻隆栄(逝去)、陳亮、松野昭二(逝去)、永島靖夫、服部昌之(逝去)、平野絢子             計14名

☆事務局短信

     関西部会事務局代表の交代に伴い、関西部会事務局が大阪外国語大学西村成雄研究室から関西大学経済学部石田浩研究室に移転した。

     『現代中国』関西部会編集にともない、事務負担分散化の観点からニューズレター編集は次号から西日本部会が担当することになり、新谷秀明理事(西南学院大)が担当者に任命された。

     十二月七日開催の関東理事会で、事務局より会費納入に関して、「入会金を1年以内に支払わない場合は連絡を停止する。三年以上会費を滞納している会員については、理事被選挙権の停止のほか、会誌、通知を停止とする。」旨を暫定内規として定めたいとの意思表示があり、他の地域部会理事会にも伝えることになった。

     同日の関東理事会で事務局より大会報告要旨のホームページでの公表について提起があり、当日およびその後の討議で「大会報告要旨は、事前にホームページ上で開示する方向で検討するが、具体的な開示方法は今後検討する」ことになった。

☆編集後記

     第一号から編集を担当してきましたが、坂元ひろ子理事長ら新役員体制発足に伴って、『現代中国』編集にあたることが急に決まり、私の編集は今号で終わります(第三号のみは在外研究の関係で鉄山博理事に替っていただきました)。

     つたない編集でしたが、担当期間中、ほぼ定期発行を堅持することができました。ご協力くださった執筆者の皆さんに心からお礼申しあげます。●新編集者は、西南学院大の新谷秀明さんが担当することになりました。福岡での編集ですが、私も大阪で編集していたし、通信機器の発達した今日では、もはや地域の違いは関係ないでしょう。●現中学会も会員数は七百人を突破し、現代中国の専門研究集団としては日本最大の組織に成長しつつありますが、最高と言えるかは議論のあるところでしょう。私も現中学会の発展に微力をつくしていきますので、今後もよろしくお願い申しあげます。(瀬戸宏)

───────────────────────────────────

日本現代中国学会   

全国事務局(関東事務局を兼ねる) http://homepage3.nifty.com/xiandaizhongguo/

153-8902 都内目黒区駒場3-8-1 東京大学教養学部中国語研究室気付

電話 03-5454-6420   E-mail xiandaizhongguo@nifty.com

(連絡所)

112-0012 都内文京区大塚6-22-18 社団法人中国研究所

電話 03-3947-8029 FAX 03-3947-8039

関西部会事務局 

564-8680 大阪府吹田市山手町3丁目335号 関西大学経済学部石田浩研究室気付

TEL. 06-6388-1121(大代表) または072-848-3424

E-mail  :  ttym@daishodai.ac.jp

『現代中国』編集委員会

572-8508 寝屋川市池田中町17-8 摂南大学国際言語文化学部瀬戸宏研究室気付

 TEL 072-839-9195       E-mail : seto@ilc.setsunan.ac.jp

西日本部会事務局

814-0180 福岡市城南区七隈八丁目19-1福岡大学人文学部・山田敬三研究室気付

TEL092-871-6631() Fax092 -864-2864  E-mail kyamada@fukuoka-u.ac.jp

────────────────────────────────────