第1報告(10:20〜11:10)
「中国黄海島嶼の漁業と家族生活――長山諸島の漁村に関する社会人類学的考察」
緒方宏海(東京大学大学院生)
 中国の改革開放政策から20年以上を経た今日、中国は大きな社会変化のなかにある。改革開放政策の理念自体は、政府が1980年代に提唱されたいたものであるが、しかしそうした改革開放の進展は、社会の完全の合意の上で、展開されているという訳ではない。またその地域的な展開の格差があることも言うまでもない。
本研究では、社会人類学の視点から、とりわけ島嶼で漁業を営む人々の社会生活についてとりあげる。中国の海域内に約5400の島が散在しており、そのうち最大のものは台湾島で面積が約3万6000平方`、二番目は海南島で面積が約3万4000平方`である。今日中国の島嶼研究は、この二つの島に集中している。
しかしこれらや一部の例外を除き、比較的大陸と離れた狭小性の島嶼の自然地理や社会的条件のなかで、生きる人々の社会生活についての研究は数少なく、またこうした地域社会特有の問題について扱った研究は極めてすくない。
本研究の目的は、遼東半島近辺の黄海に浮かぶ長山諸島の漁村、島嶼社会において、改革開放後、漁民をはじめとする長山諸島の人々がどうのようにして生活を営んでいるのか、漁業と家族生活の実態とその変容過程を明らかにしようとするものである。
大陸と離れた離島、島嶼社会である漁村の漁業と家族生活の事例研究は、大陸農村とは異なる世帯経済の側から、改革開放後の市場経済との関係性を照射する格好の題材である。本研究の具体的な分析課題は、以下の三つである。
まず@改革開放前後、主要産業である漁業の生産構造と今日の島の現状について紹介する。次に、Aコミュニティと家族・親族集団的様相、B島の漁業と家族・親族関係の構造的対応を探る。この作業を通じて、改革開放政策が島嶼で生きる人々の社会生活に、もたらした変化を浮き彫りにし、今日地域社会がかかえる特有の問題を提示する。そしてこれをもとに、大陸と離れた離島、島嶼社会における改革開放政策の市場経済化の様相を例証することを試みる。