第2報告(13:50〜14:40)
「中国住宅市場における諸問題――住宅政策が市場形成に与えてきた影響に留意して」
中岡深雪(大阪市立大学大学院生)
中国の住宅事情は改革開放以降中国政府によって取り組まれた住宅制度改革が功を奏し、徐々に改善されてきている。住宅制度改革に着手することが決まった1978年の都市部住民の一人当たり居住面積はわずか6.7uであったが、2004年には一人当たり建築面積が25.0uにまで改善されるようになった。
住宅制度改革は中国の住宅政策の総称とも言うべき改革で、住宅供給の方式を公的な分配から民間による供給へと転換させ、住宅の市場化をはかることを目的とした改革である。家賃改革、分譲住宅の販売、公的住宅の払い下げといったいくつかの改革を経て、現段階では住宅供給体制の整備はほぼ一段落し、住宅制度改革の主軸は住宅需要を支える方向に転換している。そして公的住宅政策として「住宅公積金制度」という積み立て形式の融資制度を行っている。都市部住民は住宅取得のため住宅公積金制度を利用し融資を受け、併せて銀行からも融資を受け住宅購入資金とする。このように政策上では金融面から都市部住民の住宅需要のサポートを行っている。
中国全土で住宅の建築、取引は年々増加している。また住宅公積金制度による融資、銀行融資いずれも増加しており、住宅需要の拡大に大きく寄与しているものと考えられる。一方で、近年、一部の都市、特に沿海部の都市で住宅の高騰が社会問題となっている。例えば、住宅制度改革のモデル的都市である上海では90年代から物価上昇率を上回る割合で継続的に住宅価格が上昇している。
住宅価格の高騰という事態は、どのように捉えるべきであろうか。日本のバブル期の不動産市場との間に共通項を見出せるような状態なのか、住宅需要を拡大するための政策が招いた結果と捉えるべきなのか、複数の論点が挙げられるだろう。
本報告では以上のような問題意識をもとに、上海の住宅市場を対象として住宅価格高騰の実態を考察したい。その際、政策が住宅市場にどの程度影響を与え、政策的誘導が有効であるのかに留意しながら住宅市場の全体像を把握することに努めたい。