経済―3

中国の農村工業化と環境汚染問題の経済分析

――郷鎮企業の発展に伴う環境問題を中心に――

 

陳 亮(新潟大学大学院生)

 

中国の改革はまず農村から開始され、それが全国に急速に広がり、世界が注目するような成果をあげている。特に、中国の農村地域において新しい産業群として飛躍的な発展を遂げた農村工業一郷鎮企業の発展は、約二十年の歳月を経過してきた。1998年の統計によると、郷鎮企業は国民総生産(GNP)のほぼ三分の一(生産総額68,343億元)を産出し、国家財政収入の四分の一(国家に上納した税金は2366億元)を提供している。また中国の輸出の4割以上は郷鎮企業の生産によるものであり、中国経済の重要な柱となっている。しかし、中国の農村工業化すなわち郷鎮企業の発展によって、農・林・牧・水産業に関連する環境汚染面積は広がっており、郷鎮企業の6割が環境汚染源となっている。郷鎮企業がもたらした環境汚染による直接的な経済損失は1000億元以上と推定される。間接的な経済損失に関しては計算出来ないが、巨額の損失を生み出している。具体的には、以下の9点が農村地域環境汚染における解決すべき問題である。@農村工業化に伴う農地利用の無秩序化。条件の良い(高収量の)耕地が郷鎮企業の建設用地、道路用地、住宅用地などに転用されて減少してきた。A農村工業が発達した東南部地域の農村人口過密が環境に与える負荷と汚染。B農村の工業用自動車の増加と汚染量の増大。C農村企業の工場数の増加と汚染量の増大。D農村工業と住民のエネルギー消費量の増大、空気汚染の拡大と廃棄物増加。E家畜の廃棄物と汚染量の増大。F下水道普及率の延びの緩慢さと工業、生活汚水の汚染。Gゴミの著しい増加に伴う廃棄物増加。H先進国の開発援助や海外からの民間投資による環境破壊及び公害輸出である。   

 郷鎮企業の発展に伴って、農村生態系の破壊は莫大な経済的損失をもたらし、重大な環境破壊に関係する事故が次々に発生し、農村人民の生命財産の安全を直接脅かしている。中国農村の生態系環境悪化の結果、農村の持続可能な経済発展がますます難しくなっている。この農村の生態系の破壊は中国経済の発展を阻害し、重要な農業自然資源や経済全体に悪影響を及ぼす恐れがある。

先進諸国環境汚染や中国の都市環境汚染に関する研究に比べて中国の農村工業化がもたらした環境汚染問題に関する研究は遅れている。これまで様々な視点から中国の農村工業化、郷鎮企業の発展、及びそれによる農村経済の構造や農村労働市場の変化などを対象とする研究は、多数発表されている。しかし、中国の農村での現地調査に基づき、農村工業化がもたらした環境汚染の実態を解明し、その様々な問題を環境経済学及び経済政策論の立場から検討する研究は少ない。このため、私は中国農村での現地調査のよる工業化に伴う環境汚染の実態把握に重点を置き、そのうえで本文は中国の農村工業の持続可能な開発と環境汚染対策との調和、並存のための有効な政策は何かを明うかにすることを研究課題とする。このために環境経済学、経済政策学、統計学、計量経済学等の様様な手法に使って、研究を深化させたい。

又は、中国の北方、西部、北西部の地域は自然と経済地理、開発資金の制約などの条件によって、農村工業の発展が東部と東南部に比べて相当に遅れてきた。このため、これらの農村地域の環境破壊、汚染は経済先進地域東部、東南部ほど進んではいない。人口抑制、産業構造調整、就業保障、環境保全などの対策が、これら地域での貧困脱出、持続可能な発展の前題条件となっている。このため、本文では、中国北方の先進地域の京郊モデルである北京通県の様々な環境汚染の実態とそれに対する対政策を研究対象として、それについての実態分析を行う。これによって、他の北方、西部、北西部地域での持続可能な経済発展と環境保全の調整についての可能性を示唆したい。