経済―2

中国社会保障制度改革 ‐90年代の年金改革の現状と問題

 

 呉仁正(東京外国語大学大学院生)

       

 中国の社会保障制度は50年初期に社会保険制度(原文《労働保険条例》)が制定され、都市部を中心に発展してきた。既存の社会保障制度は都市の労働者のみに対して、「単位」が年金、住宅、医療などの生活の些細な部分まで手厚く保障をしてきた。しかし、市場メカニズムに沿った経済改革を行うことで既存の社会保障にも大きくメスが入るようになる。とくに、労働者に死ぬまで支払われた年金問題は退職者の大幅な増加に伴い、「単位」という企業保障から社会保障への道のりを模索している。

 経済体制改革の推進につれ、労働者の企業保障という伝統的な関係も社会保障の新たな関係に転換するようになった。社会保険への最初の任務は社会プール保険基金を確立させることである。企業から直接保険を支払うのではなく、労働者賃金に基づき一定比例を納付する形式の基金を作り企業間の負担もバランスよく調整するものである。改革は漸進的に行われ、まずは社会性の項目を増やした。

 1984年から年金保険の改革がなされ、1991年、1995年、1997年に国務院は3回の命令と通知を発布し、養老社会保険改革を次第に深化した。養老保険の改革を行う最初の目標と突破点は退職者の負担額を減らすことであり、退職者を多く抱える企業とそうでない企業間の負担の差をなくすことであった。

 1998年には年金保険全額を社会化に向けて求めるようになった。十数年の社会化へ向けての改革は主に県・市の単位で進行し、その範囲内で基金の調整を行った。養老保険はまた11の業種別における統一徴収の状況が現れるようになった。

  国有企業の退職者の年金問題が緊急問題であり、早急な解決に向けて様々な改革がなされたものの企業の負担はそれほど軽減されていない。社会統一徴収が実施されても退職者の年金は元の企業が支払うため、二重負担をすることになるので負担の程度はむしろ増加している。

 多くの企業において年金保険料の負担が重く、保険料の滞納が多くなり、社会統一基金が不足し、困難を極めている。主な原因として企業経営が悪化し、一部の企業は労働者の賃金を滞納し、年金費用の納付をしようとしない。また、社会保険立法が法律化されてないため納付能力のある企業は社会保険に加入せず、賃金総額をごまかしたり、小額納付するなどの状況が生まれた。さらにこれらの企業は労働者をレイオフ(『下崗』)したり、繰り上げ退職させ、一部の早期退職者の年金支給が早まったこともあり、社会保険支給の圧力が増加した。また、年金受給水準の高さも社会保険制度で早急に解決を要する問題である。

 現在実施している社会保険制度は地方別の規定によって徴収されているが、国家権力機関の立法がないため、制度に強制的な力が発揮できないでいる。そのため、多くの企業・労働者が社会保険料の徴収を滞納したり、未払いにする現象が起きている。社会保障制度の困難を乗り越えるには、国家財政の負担を軽減し、社会保険の適用範囲、企業の保険料引き下げ、年金受給水準を改革することである。