法律・政治―4

中国共産党の対チベット政策‐統治形態の分析から‐

 

小林朝美(大東文化大学大学院生)

 

 本報告は、チベットの各種統治関連機関、とりわけ実質的最高権力機関といえる自治区党委員会の人事構成を中心に分析することで、中国共産党(以下、中共)が最も強い分離・独立志向を感じていたチベットをいかに統治してきたのか、そこにはどのような特徴があるのかを明らかにすることを目指す。既存研究において少数民族自治区の詳細な分析は非常に少なく、個々の特殊性に言及されることも稀であった。しかし、区域自治は中共の少数民族統治のあり方を体現するものであり、自治区の統治形態分析は非常に重要かつ有効であるといえる。本報告はこのような認識に立ち、チベットを例に中共による少数民族統治の一端を描くことを試みるものである。

中共のチベット統治の特徴は大きく以下の2点に集約できる。第1に、一貫した漢族統治である。地方の実質的最高権力は自治区党委員会系機関にある。チベットではその書記職に現在まで一貫して漢族が就いている。しかも1980年代中までは軍人が担当していた。この軍人は文革期を除きチベット進軍を担当した第2野戦軍所属者である。中共は「党が軍を支配する」ことを目指したが、チベットでは長らく軍を中心とした統治体制であったといえる。1980年代中からは中央派遣の幹部が書記となり軍人支配は終了した。また党委員会内にも軍関係者はいなくなった。1992年には党委員会第1副書記を務めた熱地に、胡錦涛の後任として自治区出身チベット族幹部書記誕生の期待が高まったが、結局第7副書記の陳奎元が書記となり、依然として漢族統治が続いている。第2に、巧みなチベット族の登用である。チベット族(幹部)がはじめて党委員会系機関に登用されたのは19593月から658月までの第4期党チベット工作委員会である。その後委員会に占めるチベット族の割合は徐々に増加した。1980年代からは自治区代表大会主任および人民政府主席をチベット族が担当するようになった。ただし、これらのチベット族はチベット自治区以外の出身者であり、かつ1960年代初めまでの比較的早期入党者である。すなわち、民族的にはチベット族であるが、チベット族と漢族(中共)の確執に直接関与しないチベット族を登用しているのである。

 以上から、中共によるチベット統治の最大の特徴の1つは、漢族(軍人)とチベット自治区外出身チベット族による統治であることといえる。また、少数民族地区の統治分析には、民族比率のみならず、その民族と漢族との歴史、幹部の出自や経歴などの総合的視点が必要である点も指摘できると考える。最後に今後の見通しとしては、依然として書記職は漢族が独占するであろうが、チベット族が多数を占める自治区人民代表大会および人民政府がいかに発言力を強化できるかなどに期待がかかること、またそれには中央に依存する財政を立て直せるかなどが課題であることをあわせて指摘する。