法律・政治―2

『人民日報』元旦社説に使用される語彙の変化からみる中国50年の歩み

 

村田 忠禧(横浜国立大学)

 

 報告者はかつて建国以来の中共党大会における政治報告の用字・用語の変化から中国政治の変動を見る、というテーマでの報告を行った(『現代中国』第73号)。今回の報告はその延長線上にあり、素材を中共中央の機関紙である『人民日報』の社説、とりわけ1949年(すなわち中華人民共和国建国前)から2001年までの元旦社説に絞り、そこで使用される語彙の変化を分析したものである。語彙の出現頻度という数値の変化から政治の変動をどれだけ見いだしうるのか、コンピュータを利用した計量分析が社会科学の研究方法としてどれだけ有効であるかを探る一つの試みである。

 元旦社説は毎年必ず出される社説であり、しかも過ぎ行く一年を振り返り、新たに迎える一年を展望することを主たる内容としており、その語彙の変化を調べることは一種の「定点観測」の役割を果たしうる。同様な性格をもった社説としては10月1日の国慶節社説も挙げられるが、こちらは毎年欠かさず出たわけではない。しかし分析面が多いほうがより正確な判断ができるので、国慶節社説についても分析を行い、両者の分析結果の比較、総合を行った。

 元旦および国慶節の社説でそれぞれ出現頻度の高い語彙をグラフで表示して見ると、特定の時期に共通した現れ方をする語彙が存在することが判明する。それをもとにしてグループ化することによって、1949年から2001年までを時期区分することが可能となる。この元旦社説、国慶節社説の語彙の出現頻度にもとづく時期区分と、1981年6月の中共11期6中総のいわゆる「建国以来の若干の歴史問題決議」(もちろんそれは1981年までのものであるが)における時期区分とを比較をしてみると、ほぼ共通した結果になる。これは語彙の計量分析という方法の有効性を証明していると見なせる。

 語彙の変化で第一に顕著な事実はいわゆる「文革期」の特異性である。第二には1979年以降の「改革開放」期をどのように区分するかという点で、元旦社説の語彙変化は興味深いデータを提供している。それによると1979年から1989年までと1990年から2001年までの間に顕著な違いが見られる。後者の時期はジャーナリスティックな言い方をすれば「江沢民時代」と称することができる。これは報告者が事前に予測していない結果であった。

 もとより時期区分をたかだか元旦社説にのみ依拠して行うことは正しくない。しかし客観的なデータから逆に歴史を見なおすと、これまで気づかなかった側面が見えて来る可能性があることを示していると言えよう。このような点でも語彙の計量分析は社会科学の一つの分析方法として有効であることを示していると思われる。